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対談「これからの50年のために」

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日本製ブライドルレザーの誕生

坪内浩氏をデザイナーに迎え、2014年の春夏コレクションよりスタートしたソメスサドル×HTレーベル。
目利きからはすでに高い評価を得ているこのコレクションのあたらしさを、
坪内浩氏と、アントリム代表の小塚源大氏の対談を通して解き明かしていく。 〈取材・文 竹川 圭〉

バッグをもつ習慣がありませんでした(笑)

小塚

シューズデザイナーの坪内さんが

ソメスサドルでバッグのコレクションを手がける。

 久々のビッグニュースに業界はざわめきました。

坪内

バッグは靴に近しい存在ですからね。

ずっと興味はありました。

ただ、いかんせんバッグをもつライフスタイルがなかった。

なんなら小銭も裸でポケットに突っ込んでいますし、

必要なカードはすべて輪ゴムで留めていますからね。 

小塚

いきなりの衝撃発言です(笑)。

しかしなんでまた、バッグをおもちにならないのでしょうか。

男は身軽でいるべき、という美意識でしょうか。

坪内

いえいえ、そんな大層なものじゃなくて、

単純に面倒くさいので(笑)。

バッグや手帳って、できる男の記号だったりするわけです。

舶来主義でしたから、記号のありがたみは理解しているつもりですが、

あるときからそういうのはもういいかなと思うようになった。

いまは着る服も日本人のものですしね。

エムズ・ブラックは毎シーズンのようにオーダーをつけているし、

今日着ているのはサンカッケーです。

小塚

目が肥えて、ほんとうにいいものがわかるようになり、

そして自分がブランドになった、ということかも知れませんね。

坪内

どうでしょう(笑)。

それはともかく、そんなんだから、

お話をいただいたときは躊躇しました。

しかし、じっさいにお会いして、製造現場をみせていただいて、

これならできるかも知れないと思いました。

小塚

といいますと。

坪内

ソメスサドルは世界のトップジョッキーの鞍づくりや

宮内庁に馬車具を納めていることで知られる名門中の名門です。

すこし前にはキャロライナ・ケネディが

皇居へ向かう馬車の馬具をつくったことでも話題に。

その名声は聞き及んでいましたが、聞くとみるでは大違い。

とにかく圧巻の製造現場でした。

フリーハンドですーっと包丁を入れていく手さばきに惚れ惚れとし、

“しぼり”や“二本針”に象徴される職人技の数々を眼前にして息を呑みました。

そこでぼくはこう考えたんです。

シンプルにこの技術をフィーチャーしたデザインならできるんじゃないか、と。 

小塚

面白そうなお話です。

出し惜しみするわけではありませんが、

デザインの考え方については持ち越したいと思います。

というのも、まずはやはり革を俎上に載せるべきかと思いまして。

レシピをいちから見直し、1年以上かけて完成させた

坪内

そのとおりですね。では、話を戻しましょう。

このプロジェクトはソメスサドルの創業50周年を記念したものであり、

半世紀に及ぶ歴史の集大成を、というところからスタートしています。

ポイントは2つ。

ひとつは外部のデザイナーを起用し、

見過ごしがちなヘリテージにスポットを当てること。

光栄にも、わたしに白羽の矢が立ちました。

そしてもうひとつが、オール・メイド・イン・ジャパン。

それまでは海外から仕入れていたブライドルレザーを、

50年の歴史ではじめて、日本でつくったのです。

ここでその革の概要をざっと振り返っておきましょう。

ブライドルは日本語で馬勒(ばろく)といって、

馬につかうおもがい、くつわ、手綱をひっくるめた道具の名称です。

この馬具のためにイギリスで生まれた革が、ブライドルレザー。

油分をたっぷり含ませることで、

しなやかさと耐久性を両立させたのです。

それまでの革は人馬一体を目指すマテリアルとしては役不足で、

つねに落馬の危険と隣り合わせでした。

すでに1000年以上の歴史があるといわれています。

日本にもブライドルレザーはありましたが、

これほどのクオリティのものは間違いなくお初といっていいでしょう。 

小塚

じっさいに手にして、

使ってみても海外のものに比べてけしてヒケをとらない、

というのが率直な感想でした。  

坪内

海外のそれよりすごいかも知れませんよ。

ブライドルレザーは牛革をベジタブルタンニンで鞣し、

蜜蝋やターロ(獣脂)、植物製油を含浸させるわけですが、

ぜひとも採り入れたいと考えていた“しぼり”では

水に浸す工程が欠かせません。

まさに“水と油”ですから、油の配合のみならず、タンニンの原料にまで

さかのぼっていちから組み立て直さなければならなかった。

完成までに1年以上かかったそうです。

苦労の甲斐あって、かつてないブライドルレザーが誕生した。

にもかかわらずまだまだ改善の余地はある、と

現場のスタッフは意気軒昂。とても頼もしい。

こうして、ソメスを代表する技法をつかったアイデアが

現実味を帯びました。

Hiroshi TSUBOUCHI

坪内 浩/シューズデザイナー。インポーターのマグナムの創立メンバーとしてプレミアータ ウォモやエンツォ・ボナフェを日本に紹介。2008年に自身のブランド、ヒロシ ツボウチを満を持して立ち上げる。

Motohiro KOTSUKA

小塚 源大/レノマなどを扱うPR&マネジメントオフィス、アントリム代表。高校時代の3年間をイギリスで過ごし、大学卒業後、ユナイテッドアローズ入社。PRマネージャーを経て2008年に独立を果たす。

Kei TAKEGAWA

竹川 圭/エディター、ライター。人物を掘り下げた取材には定評がある。職人の半生を追ったノンフィクション「至高の靴職人ー関信義 手業とその継承に人生を捧げた男がいた」(小学館刊)が好評発売中。