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対談「これからの50年のために」

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ホルスターから生まれた、しぼり、という技法

ソメスサドルの技術を生かしたデザインというお題ならぼくなりの答えが出せるのではと話してくれた坪内さん。
それは具体的にどのようなデザインワークなのか。そして鮮烈なデビューの引き金となった“しぼり”とは。
いよいよソメスサドル×HTレーベルの核心に迫る。 〈取材・文 竹川 圭〉

外部の血がもたらす伝統技法の深化

小塚

はじめてBENTO〔ベントー〕と名づけられたモデルをみたとき、

シンプルななかに浮かび上がる存在感に目を奪われました。

この引っかかる感じはなんだろう、と。

結局、種明かしをしてもらうまでわからなかった。

一枚の革でつくられていると知って、ただただ驚くばかりでした。

坪内

それが“しぼり”です。

ヨーロッパ伝統のテクニックで、

水に浸し、革の繊維を膨張させた状態でプレス成型し、

乾燥によりカタチを整えて完成します。

ソメスサドルは創業してほどなく

オファされたホルスターの製造で会得したそうです。

あの複雑な形状を一枚の革で象る。

これはすごい。

ぜひ採り入れたいと思いました。

ただ、もっぱら小さなアイテムで使われていたので、

ぼくのアイデアをカタチにするためには

あらたなプレス機を導入してもらう必要がありました。

小塚

ぽんと機械を買ってしまうなんて、

それだけでソメスの意気込みが伝わってきますが、

それにつけてもボディを丸ごと一枚の革で仕上げる着想は

突き抜けています。

坪内

言うはやすしで、現場は苦労の連続です。

木型はいちから起こしてもらいましたが、

カーブが1度違ってもうまくいかない。

数えきれないほど試作を重ねたそうです。

もちろん革は天然のものですから、

一枚一枚状態が異なりますし、天候にも左右される。

じっさいの工程においても、そういうものをすべて肌で感じたうえでの

繊細なさじ加減が必要になってくるわけで、

老練の職人技がなければ実現しなかったでしょう。

しかもブライドルレザーは3㎜厚以上に厳選。

馬具の名門に耐久性を犠牲にするような発想は微塵もないんですね。

選び抜かれた職人が手掛けていてもミスは避けられません。

小塚

ソメスサドルならではの技法という意味では、

“2本針”も見どころですね。

坪内

ええ。その名のとおり一本の糸の両端に2本の針をとりつけ、

革の表裏から同時に縫い上げていくもので、

たとえ糸が切れてもばらけることはありません。

ハンドルの付け根などにみられます。

削ぎ落としてあらわになるソメスが秘めるモダン性

小塚

持ち越していたテーマをやっつけたいと思います。

技術を生かすデザイン――その心を教えてください。

坪内

研ぎ澄まされた技法はいずれも

存在自体がたとえようもないほどモダンです。

このモダンなツラを生かすために、

とにかく削ぎ落とすデザインを心がけました。

そうすることで、ぱっと見はわからなくても

エモーショナルな部分でなにか訴えかけてくるように。

小塚

わたしはその企みにまんまと引っかかったわけですね(笑)。

坪内

狙いどおりでした(笑)。

小塚

BENTOのシンプルを極めたデザインにはやられましたが、

セカンドシーズンに登場した

ブリーフ(MANY DOCUMENTS〔メニー ドキュメンツ〕)や

クラッチ(FILE〔ファイル〕)もすばらしい。

坪内

引いて引いて、最後に足したのが馬具をイメージしたかぶせのライン、

クラシックな意匠である差し込みです。

つるりとしたボディの美しさを損なうことのない隠し味を狙っています。

小塚

コンパートメントは潔い一室構造ですね。

坪内

オーガナイザーなどをつけるとステッチが表に出てしまいますからね。

ただ、さすがにビジネスシーンでそれはどうかと踏みとどまり(笑)、

MANY DOCUMENTSは背面にファスナーポケットを設けております。

小塚

シュリンクレザーとコンビで仕上げたCONTAINER〔コンテナー〕は

わたしも購入させていただきました。

坪内

ありがとうございます。

CONTAINERのボディにシュリンクを選んだのは、

モノががんがん突っ込める柔軟性が決め手でした。

これは旅も想定していますので、

ファスナーとジップのポケットをひとつずつつくりました。

小塚

しかし腑に落ちないのは品のあるデザインワークです。

失礼ですが、坪内さんはしゃちほこや

豪勢な結婚式で知られる名古屋の出身ですよね。

いえ、けして街に品がないといっているのではなく(笑)。

坪内

念のためにいっておけば、生まれ育った街ですからね。愛していますよ。

しかし、ぼくのまわりにはなぜか、

趣の異なる名古屋人が集まりましたね(笑)。

小塚

アンチテーゼなのでしょうか

坪内

さあ、それはどうでしょう。

Hiroshi TSUBOUCHI

坪内 浩/シューズデザイナー。インポーターのマグナムの創立メンバーとしてプレミアータ ウォモやエンツォ・ボナフェを日本に紹介。2008年に自身のブランド、ヒロシ ツボウチを満を持して立ち上げる。

Motohiro KOTSUKA

小塚 源大/レノマなどを扱うPR&マネジメントオフィス、アントリム代表。高校時代の3年間をイギリスで過ごし、大学卒業後、ユナイテッドアローズ入社。PRマネージャーを経て2008年に独立を果たす。

Kei TAKEGAWA

竹川 圭/エディター、ライター。人物を掘り下げた取材には定評がある。職人の半生を追ったノンフィクション「至高の靴職人ー関信義 手業とその継承に人生を捧げた男がいた」(小学館刊)が好評発売中。