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対談「これからの50年のために」

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永井荷風に憧れて

3シーズン目となる2015年の春は一気にラインナップが増えた。
サイズをお題にしたコレクションやクラッチバッグの第二弾、そしてウォレットなどのレザーグッズ。
それらをとおして職人技の凄みを掘り下げつつ、坪内さんのデザイナーとしての矜持にも触れる。 〈取材・文 竹川 圭〉

サイズに注目したミニマルなデザイン

小塚

この春の新機軸が既存モデルをモディファイドしたシリーズですね。

坪内

バッグといえば、昔から永井荷風のことが頭に浮かぶ。

小さな籠を携えて浅草のロック座やアリゾナに通っていた。

こよなく粋な立ち姿でした。

土地の権利書とか(笑)、そういうものをしまっていたそうです。

新作は荷風に倣ってちょうどA4サイズ。

“しぼり”のモデルはその名もKAFU〔カフウ〕と名づけました。

小塚

坪内さんはデザインのミニマリズムにより

伝統技法の輪郭を鮮明にしたわけですが、

今回はサイズからその思想にアプローチされた、ともいえる。

坪内

現代の都市型生活者のガジェットが

過不足なく納まる大きさで女性からも好評です。

小塚

ファーストシーズンからブランドを代表するシリーズであるCAGE〔ケージ〕は

とくに反応がいいと聞いています。

坪内

格子パターンのボディに付け替えられるライナーを

アッセンブルするアイデアがよかったらしい。

季節や気分に応じた楽しみ方ができますからね。

小塚

その格子も馬具から着想を得たそうですが、職人泣かせだったとか。

坪内

専用のゲージに一本一本はめ込んでいくんです。

パーツが多くなるだけで大変ですし、

ずれないように取りつける作業も神経をつかう。

ゲージそのものもつくっているんですよ。

小塚

クラッチの第二弾CLUTCH BAG〔クラッチバッグ〕も絶妙です。

これはかぶせの部分にシュリンクレザーをつかっているんですよね。

坪内

現場はやっぱり悲鳴を上げていました(笑)。

ボディ=外縫い、かぶせ=うち縫いというように異なる縫い方が混在しており、

センターを縫製したうえで、それぞれのパーツをそれぞれの縫い方で組み立て、

さらに手縫いで補強する工程を経なければなりません。

小塚

聞いただけではちょっとわからない。

それだけでもコンストラクションの複雑さが容易に想像できます。

もうひとつが世界観を深めるために

ラインナップに加えたレザーグッズのコレクション。

坪内

レザーグッズに関してはインラインから選びました。

収納ありきのギアですから、餅は餅屋ということで。

ソメスのコレクションのなかでも

もっとも機能的に完成されているシリーズだそうです。

ぼくはこれをブルーに染めてもらった。

あわせて、ジップをシルバーに。

プルトップのシルエットもマイナーチェンジしました。

深みのあるデザインを可能にするのが、現場主義

小塚

あらためてクラフトマンシップ溢れるプロダクトであることを痛感します。

坪内

型をいちから起こしてもらうなど、

ぼくの発想は素人ならではです。

これをカタチにしてしまうのだから、

いかに地力があるファクトリーかがわかりますね。

ソメスサドルの生産現場は流れ作業ではありません。

2〜3人でチームをつくって、チームのなかで仕上げまで行います。

職人が気概をもって取り組める、すばらしい態勢です。

ただ、6班あってうちの担当が2班だけなのはできないのか、やりたくないのか(笑)。

小塚

熟練のチームでも不良はゼロにならないそうですから…。

坪内

次の来道ではほかのチームも懐柔するとしましょう。

小塚

そこはぜひうかがってみたかったところでした。

坪内さんといえば、ただ絵を描いて終わりではなく

現場に足を運ぶのを常としていらっしゃいます。

坪内

もちろん職人とのコミュニケーションが欠かせない、というのもありますが、

やはりどのような環境で生まれるモノづくりなのか。

それは知っておく必要がある。

おじゃまして、日本とは思えない光景に感動しました。

草原にぽっかりと浮かぶ工場。

ランチもクルマで20分かかる。

そして人間がみな素朴でした。

丹精込めたプロダクトと褒めそやされるのも、むべなるかなと感じ入りました。

小塚

前回の出張ではおでんがヒットだったとか(笑)。

坪内

砂川の駅からは歩ける距離にあるんですが、

とても飲食店があるようには思えないエリア。

これがほんとうに美味しい。

ミシュランで星をとっていると聞いて3度びっくりでした。

Hiroshi TSUBOUCHI

坪内 浩/シューズデザイナー。インポーターのマグナムの創立メンバーとしてプレミアータ ウォモやエンツォ・ボナフェを日本に紹介。2008年に自身のブランド、ヒロシ ツボウチを満を持して立ち上げる。

Motohiro KOTSUKA

小塚 源大/レノマなどを扱うPR&マネジメントオフィス、アントリム代表。高校時代の3年間をイギリスで過ごし、大学卒業後、ユナイテッドアローズ入社。PRマネージャーを経て2008年に独立を果たす。

Kei TAKEGAWA

竹川 圭/エディター、ライター。人物を掘り下げた取材には定評がある。職人の半生を追ったノンフィクション「至高の靴職人ー関信義 手業とその継承に人生を捧げた男がいた」(小学館刊)が好評発売中。