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対談「これからの50年のために」

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日本のエンツォ・ボナフェ

最終回は坪内さんの足だまりであり、ついにローンチしたシューズ・コレクションについて。
その製造を託したのは坪内さんをして、“日本のエンツォ・ボナフェ”と賞賛してやまない職人集団だった。
小塚さんに代わって聞き手をつとめるのは当連載の取材、執筆を担当した不肖・竹川。
坪内さんと20年来の付き合いで、昨年の暮れには靴職人のノンフィクションを上梓している。〈取材・文 竹川 圭〉

手と機械の仕事が見事に融合した一足

竹川

受注生産で靴のコレクションも本格的にスタートします。

坪内

ソメスサドルのクオリティに見合うこと

―そのハードルを軽々とクリアしたのが橋本公宏くんです。

橋本くんはあの伝説の靴職人、関信義さんがみとめた3人の弟子のひとりで、

現在は浅草の北にある清川の雑居ビルを居抜きで借りて、

若い職人を束ねつつ、分業制で靴をつくっています。

ビルの上は若手の住まいとして提供しているそうです。

いま、日本は丸ごと一足ひとりの手でつくり上げる世界が

ひじょうな注目を集めています。

あれはあれで素晴らしい。

工芸品のような美しさがある。

しかし、機械が手の道具として機能していた時代の雰囲気というか、

そういうのがいいなぁと。

竹川

まだまだ手仕事が必要とされていたオートメーション萌芽のプロダクトですね。

坪内

ええ。そのモノづくりはソメスはもちろん、

ぼくが私淑し、長いことお付き合いさせていただいている

イタリアはボローニャのエンツォ・ボナフェとも通じるんです。

竹川

たしかに。

坪内

80歳で現役のボナフェ御大は、

履き心地を左右する部分のみ手で仕上げる九分仕立てを守り続けています。

けして機械を否定するのではなく、

それぞれのいいところを生かす、という柔軟な発想。

この着地点は産業として考えたときにも軽んじることはできないでしょう。

ところが、これを日本で、と考えると、

じつはほかにふさわしい人物がいないんです。

橋本くんにお願いするのは、ある意味必然でした。

かれはむかしから、おれは分業でやっていくといっていました。

竹川

木型も若手を登用していますね。

坪内

松田哲弥くんです。

海外ではデザイナーとモデリストがタッグを組んで

コレクションをつくるのが定石です。

にもかかわらず、日本にはピンのモデリストさえいない状況でした。

そんなときに現れたのが松田くんで、

そして飛び切りの感性をもっていた。

この有機的なシルエットは、かれだから出せる領域です。

竹川

ラインナップしたのはJODHPUR BOOTS〔ジョッパーブーツ〕と

DOUBLE MONKSTRAP〔ダブルモンクストラップ〕ですね。

坪内

馬具のソメスですからジョッパーは外せません。

ダブルモンクはこの秋、ワードローブに加えていただきたい一足です。

竹川

デザインとしての特徴は?

坪内

まずはご注目いただきたいのがブーツの甲のシルエットです。

甲の峰に吸い付きつつ、きれいに立ち上がったシルエットは

ウマという工具を使ってクセづけする、

クリンピングと呼ぶ技法の賜物です。

そのウマは師匠の関さんから譲り受けたそうです。

竹川

2つつけたDカンがいい具合のアクセントになっています。

坪内

馬具をイメージしました。

アッパーはアノネイのカーフですが、

ベルトにブライドルレザーを使っています。

バッグ同様、コバもカンナ、ヤスリの順で研磨し、

仕上げ材を塗り込むという工程を省くことなく、

ていねいに磨き上げています。

次から次へとアイデアが沸いてくる

竹川

今後はどのような展開をお考えですか。

坪内

素人だからできたことも多かったと思うんですが、

それなりに職人と膝突き合わせてきたいま、

また違ったモノづくりもできるのではと思っています。

すでにいくつかアイデアもありますし。

竹川

たとえば?

坪内

“しぼり”のポケットをボディにぽこぽこつけたり、

表にスリットを入れて、なかにポケットを設けたり、

前面をパンチング加工したり…。

せっかくのブライドルレザーがもったいない方向にいっていますね(笑)。

靴では馬蹄型のトップリフトがつくれないかなと思っています。

竹川

もったいないだけじゃなく、やっぱり現場を泣かすアイデアばかりですね(笑)。

Hiroshi TSUBOUCHI

坪内 浩/シューズデザイナー。インポーターのマグナムの創立メンバーとしてプレミアータ ウォモやエンツォ・ボナフェを日本に紹介。2008年に自身のブランド、ヒロシ ツボウチを満を持して立ち上げる。

Motohiro KOTSUKA

小塚 源大/レノマなどを扱うPR&マネジメントオフィス、アントリム代表。高校時代の3年間をイギリスで過ごし、大学卒業後、ユナイテッドアローズ入社。PRマネージャーを経て2008年に独立を果たす。

Kei TAKEGAWA

竹川 圭/エディター、ライター。人物を掘り下げた取材には定評がある。職人の半生を追ったノンフィクション「至高の靴職人ー関信義 手業とその継承に人生を捧げた男がいた」(小学館刊)が好評発売中。