時を重ねても
愛され続けるものを目指して
最終章:記念レース鞍
2024年8月21日、日本を代表するレジェンドジョッキー、武豊騎手がソメスサドル砂川ファクトリーに来訪されました。
デビュー当時からソメスサドルの鞍をお使いいただいてる武豊騎手ですが、砂川ファクトリーにお越しいただいたのは今回が初めてでした。
馬具作りと共に歩んできた60年、その集大成として、武豊騎手に特別な鞍をおつくりし、来訪いただいた折に完成した鞍をお渡ししました。
試乗と改良を重ね
ソメスサドル60周年の集大成となるレース鞍、そのプロジェクトは2021年からはじまっていました。開発にあたっては、定番の鞍には無い新たな素材に挑戦。細部のデザインから鞍骨の形状まで、ヒアリングと改良を重ねながら、約4年の歳月をかけ完成させたビッグプロジェクトでした。
1.新たに採用したエコな革
ソメスサドルがつくるレース鞍は軽量で耐久性の高い人工皮革が使われますが、新たに使える素材を探す中で新たに見つけたのが「リサイクルレザー」です。
革製品をつくる上で生まれた端材を粉砕し、天然ゴムや樹脂などと合わせてシート状にした合成皮革。厚みや柔らかさ、そして耐久性も従来の素材と遜色なく、なおかつ環境に配慮された素材である点も採用の決め手になりました。
2.鞍骨から改良
鞍全体の核となる鞍骨。頑丈であることは大前提ですが、斤量が決められている競馬においては軽量であることも求められます。今回新たに採用したものがカーボンでした。
航空機やスペースシャトルの機体などにも採用される素材で、安全性を確保でき、かつ軽く薄くできる点は競馬の鞍に使用する素材としても理にかなっているといえます。
職人の技術を込めた
最高の道具で応える
当初3種の鞍を制作予定のところ、やりとりを重ねる中で2斤サイズとソフトレーシングをお作りすることに決まりました。すべて武豊騎手に合わせてお作りしたオリジナルデザイン。ブラックの本体に”はみ出し”という技術を使って紫のラインを合わせました。紫は武豊騎手の”勝負カラー”です。
製造において、従来の鞍と大きく異なるのは鞍骨の形状。通常前橋からシート部分まで作られるところを、今回は前橋とアブミを接続する部分のみとかなり縮小した形になりました。
特にシート部分のカーブした形状は鞍骨に頼るところが大きく、鞍骨無く形作ることは熟練の職人でも苦労したそう。内装の素材の選定や貼り合わせの工夫によって成形しました。
乗馬鞍とくらべると遥かに小さなレース鞍、サイズは違えど騎手が乗り、身を預ける道具であることに変わりありません。
工程の終盤、アオリやアブミ革などそれぞれのパーツの繋ぎ合わせには、職人の手縫いが欠かせません。
錐で穴を開け、一目一目丁寧に縫い進める手縫い。前橋の部分は全体のバランスを確認しながら縫い合わせます。
そして凱旋門賞へ
ファクトリーで鞍をお渡ししたのは8月下旬。約1ヶ月後には世界最高峰のレース「凱旋門賞」の出場を控えたタイミングでした。今回の鞍の製造に携わってきたソメスの職人やスタッフも、レースを見届けるべくフランスパリへ向かいました。
残念ながら頂点を掴む結果にはならなかったものの、本レースに出場した16名のジョッキーのうち、武豊騎手をはじめ、坂井瑠星騎手、レネ・ピーヒュレク騎手、クリスチャン・デムーロ騎手の4名がソメスサドルの鞍をお使いいただいていたことは、大変感慨無量だったといいます。
悲願の日本人騎手優勝へのリベンジ、そしてジョッキー達の安全なレースを願って、ソメスサドルはこれからも最高の道具で応えてゆきます。