時を重ねても
愛され続けるものを目指して
職人座談会
長い月日をかけて完成まで辿り着いた60周年記念のボストンバッグとアタッシェケース。今回はサンプル製作に携わったデザイン企画室の職人に、60周年プロダクトに込めた想いを尋ねました。
>写真左:平井、右:畠山
ー今回のボストンとアタッシェ、アイテムが決まった段階での印象はいかがでしたか?
「これまであまり手掛けたことが無く、かつ技術を活かした作り甲斐のあるもの」というデザイナー側の意図がありました。
畠山 口枠式のボストンについては過去に同じ形の物を作ったことがあったので大体のイメージがつきました。
平井 ランドマークボストンだね、15年くらい前の。あれも口枠でベロと金具が付いていて。アタッシェは手がけたことがなかったので未知数でしたね。
ーデザインについてデザイナーとのやりとりはどのように進められたんですか?
平井 デザイナーからはまず全体のデザイン・内装のポケットとか、サイズ感とか大まかなイメージで提案されるので、そこからどのように形に出来るかはこちらに任されます。サンプルを作って、デザイナーと擦り合わせて必要箇所を修正します。
ー未知数のアタッシェはどうやって形にしたんですか?
畠山 アタッシェはオリエントレザー時代に作ったことがあったようで、昔のサンプルを参考にしました。倉庫でサンプル探すところからはじまりましたもんね。
平井 昔のは今回のより少し大きいけどね。
ー以前製造工程を拝見しましたが、木に革を貼るんですよね。
平井 そう、基本は木に革を貼って作ります。土台の木のサイズに合わせて革をつくるんです。
ーまさか木の土台まで作ったんですか?
平井 いやいや、それは専門のところにお願いしています。笑
ーそうですよね。(笑) ソメスの職人は社屋の色んなものまで作られているので、まさかと思って聞いてしまいました。 ほぼ初めて手がけるアタッシェ、苦労はありましたか?
平井 難しいところは金具の位置かな、上の錠前はズレるといけないので。
畠山 あと、底も苦労してましたよね。
平井 そう、金具と縫い目、どちらもズレないようにする微調整が難しかった。一番難しいところと言われたら底かなぁ。
畠山 平井さん一回金具の位置失敗してましたよね。
平井 そう、持ち手(ミニ)の位置を間違った…笑
ーアタッシェの本体革はブライドルレザーですが、作る面での扱いについてはいかがでしたか?馬具用のしっかりした革なので難しいイメージがあります。
平井 ブライドルは硬いからね。曲げには強いけど細かな噛み合わせのような細かい箇所は少し大変だったかな。革を手で柔らかくしながら貼っています。
平井 あとは油分が多いから、ミシンで縫う時に一気に縫おうとすると押さえが滑ってピッチの幅がズレやすいので慎重に縫いますね。
ー今後、このサンプルをベースに商品製作になります。限られた個数になりますが作るのは企画室で?
平井 アタッシェは…そうなるかな。
畠山 これ平井さんにしか作れないんじゃないですか?
平井 うーん、特にこの底の部分、この細かなニュアンスを伝えるのは難しいんだよね。
ー今回はデザイン確定までのサンプル作りで、通常よりも本数が多かったと伺いました。完成までにどのような苦労がありましたか?
平井 アタッシェは2回で決まったけどね。
畠山 ボストンは4回、サイドの綺麗な形を出すのに苦労しました。今回のボストンは革が柔らかいからなかなか形が決まらなくて内に貼る芯の形を何回か変えて…。
ー口枠の開閉に関わる位置ですね
畠山 そう、閉じた時はもちろん、開いたときも綺麗な形になるように。あとは口枠の端が革に触れないようにするのも芯が関わってくるので。
平井 あとはここもズレないようにって言われてた。
畠山 底の角ですよね、ミシンで縫う時に位置が見えないから難しくて。この2つの位置がズレるとすごく格好悪いんですよ。
ー試行錯誤があったんですね
畠山 そうですね、あとはベロの金具を変えてみたり、口枠にマグネットを入れた時もありましたね。
平井 あったね。でも革を巻くと意外と磁力が弱まるから結局元に戻したんだけど。
畠山 口枠の位置の為なら胴にバネを入れてみても良かったかもしれないですね。
平井 パッサージュに使っているやつね。それも良いかも。
畠山 口枠にハンドルを付けても、持った時に口枠が持ち上がって良かったかもしれないです。
ーアイディアが尽きませんね。60周年サイトではボストンバッグ、アタッシェケースと製造の様子をブログで発信していますが、既に実物を見てみたいというお声もあるそうです。お使いいただく方へのメッセージはありますか?
平井 そうなんだ、嬉しいですね。限られた個数ですが、その分ひとつひとつに技術を込めて丁寧に作っているので、大切に使ってもらえたら嬉しいですね。
畠山 細部までこだわって仕立てているので、美しさを感じてもらいたいです。