北海道・砂川に工房を構えるソメスと、茨城・河内町にアトリエを構える WILDSWANS。
革と向き合い、道具として永く使うための仕立てを大切にしてきた、ふたつのブランドが出会いました。

両ブランドのコラボレーションで生まれた「860ショルダー」は、バッグ本体をソメス、ショルダーをWILDSWANSが手掛けています。
その仕立てを語り合うために、WILDSWANSの職人がソメス砂川ファクトリーを訪れました。
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WILDSWANS は、革が育つ時間を大切にする革製品ブランドです。
厚革を活かした構造と、細部まで丁寧に仕立てる姿勢が特徴で、修理をしながら永く使い続けられる道具づくりを行っています。
「長く使えるための設計」という価値観は、ソメスと深く通じ合うものです。

SOMÈS(以下S):
今回のバッグ本体は、サドルバッグをモチーフにしています。現代ではバイク用のイメージが強いですが、元は馬に装着するためのバッグです。
走行中でも形が崩れないように作られていて、ソメスでも過去に何度も手掛けてきた、ゆかりのある形なんです。
WILDSWANS(以下W):
フラップが鞍の曲線を描いているのが、ソメスさんらしいですね。
S:
はい。さらに、フラップにベルトが付いているのもサドルバッグの特徴です。馬の動きを妨げないような元の構造から、背面は極力シンプルなデザインにしています。

W:
本体のポイントはどこになりますか?
S:
特徴的なのはパイピングでしょうか。前面と、フラップ部分は背面までぐるりと一周縫い回しています。
これは見た目の引き締めだけでなく、形をしっかり保つための補強にもなっています。堅牢さを求めるサドルバッグらしさと、すっきりした印象の両方が出せるんです。

W:
革は何を選んだのでしょう?
S:
フランス・HAAS(ハース)社のカーフレザーです。生後6ヶ月以内の仔牛の革で、繊維が細かく、銀面がとても整っている素材です。薄いのにコシがあって、手に吸いつくような質感が魅力ですね。
ソメスの製品でもよく使う、信頼している革です。

W:
たしかに、しっとりとした触り心地が印象的です。
S:
これはタンニンとクロームを組み合わせたコンビ鞣しですが、オイルを多く含んでいるので、使うほどに艶が深まり、表情が育っていきます。
フラップに通したベルトには、ショルダーと同じ革を合わせています。

W:
ショルダーベルトには、馬具にも使用されるほど堅牢な革を選んでいます。WILDSWANSでも代表的に使う素材です。
S:
馬具に使われる革、というのはとても嬉しいですね。素材を厳選する姿勢に、ブランドとしての共通点を感じます。

W:
ベルギー・マシュア社製のフルベジタブルタンニン鞣しの牛革です。通常の牛革に比べてオイルを多く含んでいるので、堅牢でありながら柔軟性もあるのが特徴です。
その中でも、繊維密度が高くコシの強い成牛の肩(ショルダー)部分を使用しています。透明感のある艶は、使い込むほどにさらに深まり、持ち主に馴染んでいきます。
S:
シボのある本体革と、艶のあるショルダーのコントラストがいいですね。
W:
そうですね。さらに金具にはギボシを採用し、本体のクラシックな雰囲気に調和する印象にしています。

S:
ショルダーはどのように作られているのでしょうか?
W:
まず革を貼り合わせて圧着し、カットして断面(コバ)を磨きます。長いパーツなので、均一に仕上げるには集中力が必要です。
S:
コバの締まり方がとても美しいですね。
W:
縫製には、私たちが普段から使っている足踏みミシンを使っています。電動ではなく、革の状態に合わせて速度を細かく調整できるのが利点なんです。
S:
足踏みミシンは、独特のリズムと質感が出ますよね。機械任せでは出ない、“人が縫っている”という温度が伝わります。

W:
さらに今回は、縫う前にステッチ穴をあらかじめ開けておく方法を採用しました。糸がしっかり締まり、ステッチの並びがより整って見えるようになります。
S:
そのひと手間が効いているんですね。縫い目の揃い方が本当に端正です。

W:
特にショルダーは長さがあるので、必要な箇所はハンドルを手で回しながら一針ずつ丁寧に縫い進めています。小さなズレが全体の印象に響くので、とても気を遣う部分です。
S:
修理でも元穴に沿って縫う場面がありますが、わずかにずれただけで穴が広がってしまうので……すごく分かります。
W:
金具まわりも、押さえ跡が残らないよう押さえを外して縫っています。見えない部分こそ丁寧に仕立てておきたいと思っています。
S:
こうした積み重ねが、“長く使える道具”につながるんだと、あらためて実感しますね。

W:
それから、ショルダー端の金具を留める部分には、中心に縦のステッチを一本入れています。
S:
この縦ステッチは、馬具でもよく入れますね。引張り方向の強度を上げるために入れています。
W:
まさにそこを参考にさせていただきました。金具まわりは負荷のかかるポイントなので、強度を補える構造を採り入れたいと思って。
S:
馬具の考え方が、こうやって別のアイテムに活きるのは嬉しいですね。

離れた土地で、それぞれに革と向き合いながら、長く使える道具としての仕立てを続けてきたSOMÈSとWILDSWANS。
手の運び方も、工程の順番も、道具の選び方も違う。けれど、“使う人の時間に寄り添うための形であること” という価値観は、同じ方向を向いていました。
860kmという距離は、隔たりではなく、
それぞれの場所で積み重ねてきた時間の証でもあります。
その時間が、今回「860ショルダー」というひとつの形に結びつきました。
ゆっくりと馴染み、深まっていく革の表情とともに、
持ち主の暮らしの中で、このバッグは完成していきます。
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